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シリコンバレーにはこれら革新的なベンチャー企業が本拠地を構えています。
そんなシリコンバレーの中でも中心と言われているPalo Altoのど真ん中に
One Concernは本拠地を構えており防災業界にイノベーションを起こそうとしています。
あらゆる産業がITの力で変わりつつある世の中ですが
ついに防災業界にも変革の時が訪れたのかもしれません。

はじめに

私がアメリカのシリコンバレーで働いていた際に、野心的なベンチャー企業のCEOから ”Disrupt” という単語をよく聞きました。Disruptは直訳すると“破壊”という意味であり、「私は何とかしてこの業界をdisruptしたい」などというフレーズを聞くことが多かったのですが、初めの頃は何が言いたいのかその真意を理解することができませんでした。

しかし、シリコンバレーでいくつものベンチャー企業と接していく中で、disruptとは、古い産業に対してそれまでの商慣習やビジネスモデル、その市場に君臨する市場上位企業の競争優位性を覆す破壊的なイノベーションを起こすということを意味しているのだと徐々に理解し、ITによってイノベーションを起こそうという野心家が多いアメリカのベイエリアを象徴するようなその単語に少しずつ私も馴染んでいきました。

その後日本に帰国して防災業界で働いていく中で、その単語を耳にする機会はめっきり少なくなりました。しかし先日One Concern(ワン・コンサーン)のCEO & Co-FounderであるAhmad Wani氏にお会いした際に、久しぶりに”disrupt”という単語を思い出しました。「日本を始めとした世界の防災業界にイノベーションが起こるかもしれない」と彼らの創り出すテクノロジーには感じさせるものがありました。

Ahmadの経営手腕と理念に共感して20億円ものお金と世界トップレベルの人材が集まる

2014年にインドのカシミール州を大洪水が襲った時にAhmad自身も被災しました。被災してすぐにレスキュー隊が来ることもなかったので、彼は1週間にわたって生死の境をさまようことになりましたが、なんとか一命を取り留めました。

優秀な仲間と共に防災業界にイノベーションをもたらす:One Concern HPより画像引用

彼にとってこの被災経験は大きな転機となり、自然災害から一人でも多くの命を救うためにどうすれば良いのかという考えに、彼を掻き立てることになりました。その後災害から人々を守る方法を見つけるために名門スタンフォード大学に入学し、大学の仲間と共にOne Concern(ワン・コンサーン)を設立し、AIによって防災業界を革新するシステムを開発しました。

AIを活用して防災業界を変えようというOne Concernの技術力の高さとAhmadの経営手腕はシリコンバレーの敏腕投資家からも評価され、2015年の創業以来順調に実績を伸ばし、2017年12月にはNew Enterprise Associatesをリード投資家として約20億円($20M)ものEquityによる資金調達をシリーズAで行いました。

One Concernを高く評価しているのは決して投資家だけではありません。 スタンフォード大学の他の優秀な人材もOne Concernで働きたいと集まっており、その他にもデータサイエンティスト、フルスタックエンジニアなど、IT業界の一流と呼ばれる人たちをOne Concernでは社員として多く抱えています。

取締役として2005年〜2017年までロックフェラー財団で代表を務めたJudith Rodinを 、アドバイザーとして元CIA長官のGeneral David Petraeus、元FEMAの副理事のRichard Serinoを招き入れています。

世界トップレベルの人材(ヒト)、AIを防災に活用した革新的なシステム(モノ)、シリコンバレーの敏腕投資家から調達した資金(カネ)を元に、One Concernは世界の中心であるシリコンバレーのPalo Altoのど真ん中から、防災業界にイノベーションを起こそうとしているのです。

AIが瞬時に災害の被害状況を推測する

日本で本格的にAIを勉強しようとしたことがあるプログラマーならば誰もがスタンフォード大学のAndrew Ng氏の名前を聞いたことがあるかと思います。本格的にAIを勉強する上で彼の考えを学ぶことは必要不可欠であり、courseraで彼が提供している英語の授業を受けることは、AI技術習得のための福音書とまで言われています。One Concern(ワン・コンサーン)の防災AIシステムもAndrew Ng氏の協力を得ながら作成されています。

世間ではAIがもてはやされており、あらゆるベンチャー企業が「弊社は最先端のAIを活用して〜」と説明されることが多いですが、中には実体がなく、ひどいものではパッケージを使うだけ(Pythonのライブラリをただ読み込んで数値を入れるだけ)のもののあり、良いプロダクトを作るというよりはAIと名乗りたいだけのベンチャー企業が横行しているのが今の日本の実体であると個人的には感じております。

AIの被災状況予測システムのデモ画面:One Concernより画像提供

ただし、One Concernでは確かなAI技術をもとに改良を続けており、ただAIというバズフレーズを使いたいだけのベンチャー企業ではなく、災害から命を救うためにどうすれば良いのかという問題を解決するための手段としてAIを活用しています。

実際に私もデモ画面でシステムを使う様子を拝見させていただいたのですが、ブラウザ上で地図を活用して被害状況を視覚的に把握することができ、UI・UXデザインにも工夫されており、システムを使うために複雑なマニュアルを読む必要はなさそうでした。

ブラウザ上ではこのような画面が表示され、地震後15分以内にビックデータをAIが分析して85%の精度でどのエリアがどれだけの被害を受けているのか被害の全体像を瞬時に把握することができます。“85%”という精度が十分なものなのか、不十分なものなのかはどの立場でこの情報を見るのかによって変わってくるかと思いますが、One Concernのシステムの面白いところはここからです。

最初に地図上に表示されるデータはAIが推測しているだけの情報です。85%の精度があるということは、15%の被災予想エリア は間違っていると言い換えることもできます。そのために実際に被災地に行ってみると、地図上では被害が小さいと言われていたエリアがひどく被災していたということもありえます。AIは構造的に100%の精度で答えを出すということが難しいので、この15%の誤差はAIを使う上で不可避的であると言えます。

しかし、実際の災害現場に行って被害状況が予想と違うと判明したタイミングで人間が手動修正を加えることができます。想定被害が小さいとされていたエリアが実際には大きかったと修正することで、AIがなぜこのエリアは被害が小さい予測から大きくなったのかデータから分析し、瞬時に地図全体の被害予測の修正を行い、全体の精度をより高めることができます。

高齢者、外国人など災害弱者と呼ばれている人たちをデータで洗い出すこともでき、発災直後に優先すべき人命を少しでも多く救うために、どのエリアでの救助活動を重点的に意識すべきなのか判断する材料になりそうでした。

防災訓練にもOne Concernのシステムを活用することができる

One Concern(ワン・コンサーン)のシステムには多様な機能が付いているので、ここで全てをご紹介することはできないのですが、私が個人的に面白いと感じたものとして防災訓練へのシステム利用があります。

災害時には実際に発生した地震や洪水などの情報が入力されて被害状況を分析しますが、防災訓練用に特定の地震、洪水などを擬似的に発生させてその被害状況をAIで分析することもできます。

防災訓練用に特定の地震、洪水などを擬似的に発生させてその被害状況をAIで分析することもできる。

日本では南海トラフ地震、首都直下地震など、国難になり得る災害が近い未来に発生するかもしれないと言われていますが、例えばOne Concernのシステムにおいて擬似的に南海トラフ地震を発生させてみて、どのエリアで甚大な被害が発生する可能性があるのか、その際に各関係機関はどう動くべきなのか、災害対応するに当たって足りなくなるリソースは何なのか、などをシミュレーションすることもできます。

更にシミュレーションした防災訓練のデータも蓄積することができるので、実際に災害対応を行う各地方自治体において 防災担当者の人事異動による入れ替えがあったとしても、ノウハウをシステム内に蓄積していくことができるので、初めて防災担当になった職員でも、過去の防災ノウハウを継承することができます。

One Concernの日本進出と今後の展望について

One Concern(ワン・コンサーン)はその確かなテクノロジーと優秀な人材をもとにすでにサンフランシスコ、ロセンゼルス、シアトルで既にシステムが導入されています。冒頭でも申し上げたように昨年の12月には20億円の資金調達にも成功しており、この資金を元に更なる人員拡充を図り、システム改良やマーケットの拡大に充てるとのことでした。

そしてOne Concernの狙う次なるマーケットが日本です。One Concernの長期的ビジョンは「地球規模でレジリエンスを向上させ、すべての人にとって安全かつ持続可能で公平な世界を実現すること」です。

日本は世界的に見ても災害の多い国であり、自分たちの目標を実現するにあたってOne Concernの日本進出は大きな意味のあることと言えます。日本の防災は過去の災害から教訓を得て改善を繰り返してはいますが、テクノロジーという観点から見るとどこか旧態依然とした体質があり、イノベーションが止まっている部分があるのではないかと個人的には感じています。そしてOne Concernの日本進出は日本の防災業界におけるイノベーションを加速させるものになるのではないかと期待しています。

災害はアメリカや日本だけでなく世界各地で発生している

ただし、当然アメリカで機能した防災AIシステムをそのまま日本に輸入できるわけではありません。日本とアメリカでは地形特性も、発生する災害の種類も、災害対応の方法も、災害というものに対する文化的な価値観も異なります。

AIの予測精度を上げるために膨大なビックデータを学習させる必要があるのですが、取得できるデータの種類が異なることもあるので、日本に合わせてAIのアルゴリズムを変更する必要があります。そのために One Concernはいくつかの日本の防災関連機関との協力を探っています。

また、彼らは世界有数の優秀なエンジニアやデータサイエンティストの人材を抱えており、シリコンバレーの投資家からの多額の資金調達にも成功しています。これらは日本の防災会社が持ちえていないような経営資源と言えます。

また最初のプロトタイプも6ヶ月で作り上げるというフットワークの軽さ(リーンスタートアップ的な思考)を持っており、たとえ既存のAIシステムが日本のマーケットにうまくフィットしなくてもピボットして日本の防災マーケットが欲しているシステムを創り上げるのではないかということが期待できます。

防災業界では今までにアメリカから、「タイムライン」「ICS(インシデントコマンドシステム)」など災害対応を改善するための手法を学びつつあります。One ConcernのAIシステムもそれらと同様に日本の防災市場を改善する可能性を秘めているといえます。

おわりに

私は防災業界で働く前は新卒でしばらく銀行にて働いていました。半沢直樹に当たらずも遠からずのような仕事内容で、時には融資を打ち切って会社を倒産に追い込むこともありました。会社が倒産するとやはり担当者としては胸にくるものがありましたが、これは「融資先が会社の業績を改善することができなかったから倒産したんだ」と自分自身に言い聞かせて納得させていました。

筆者が住んでいた”ハッカーズハウス(Hacker’s House)”でも夜中の3時頃まで皆でプログラミンング(とネトゲ)をしていた

その後ひょんなことからアメリカに渡り西海岸で働く機会がありました。当時のシリコンバレーはフィンテック(金融業界をITの力で革新しようとするもの)の絶頂期であり、Common Bond、Kabbage、Mint、Robinhoodなどといった有名ベンチャー企業がまさに台頭してきている最中でした。

金融という古く旧態依然とした業界を、ジーンズとTシャツを着た陽気な若者達がITを武器に革新していく様子を目の当たりにして息を呑みました。かつて銀行で働いていて業界が非効率的なのは分かっているけど、簡単には変えられない理由がいくつもあることを知っていただけに、それらの問題に正面から向き合っていくシリコンバレーの起業家たちを心から尊敬しました。

「融資先が会社の業績を改善することができなかったから倒産したんだ」なんて言い訳をせずに、自分たち自身の古い業界体質を革新して業務効率化によるコスト削減が進んでいたら、リスクをとって融資できる金額も増えて潰れずに済んだ会社もあったのかななどと思うようになりました。

その後またひょんなことから防災業界で今は働いていますが、防災業界もやはり旧態依然とした古い体質があるのではないかなと個人的には感じています。おそらく今までに多くの人たちが防災をより良くしようと取り組んできたのだと思いますが、テクノロジーは日夜進化しており、防災業界もそれにキャッチアップしていく必要があると思います。

そんな中で今回、One ConcernのCEO & Co-FounderであるAhmad Wani氏にお会いして、かつてシリコンバレーでテクノロジーによって金融業界が変わっていったように、防災業界もテクノロジーの力で変わっていくのではないかと思いました。

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