国土交通省の首都直下地震対策計画について

日本では今後発生が予測される大きな災害として、首都直下地震と南海トラフ地震があります。どちらも仮に発生すると甚大な被害をもたらすことが予測されており、これらの災害には国をあげて防災対策を行っています。
この中でも首都直下地震は日本の経済、政治、文化などすべてが集まっている首都東京が被災するために、各機関によって事前に防災対策が練られています。
首都直下地震への対策として国土交通省は「首都直下地震対策計画」を作成しており、対策を行っています。
今回はそんな首都直下地震対策計画について、そもそも国土交通省の首都直下地震対策計画とは何か、首都直下地震対策計画の内容、などについて書いて行こうと思います。

首都直下地震とは何か

首都直下地震とは関東地方の南部で今までに何度も繰り返されてきているマグニチュード7クラスの巨大地震の総称です。南関東直下地震などと呼ばれることもありますが、首都圏であることから首都直下地震と言われることが多いです。
首都直下地震では場所が首都圏ということもあり、仮に発生した場合には甚大な被害がもたらされるのではないかと言われています。東京には、文化、経済、政治と日本のあらゆるものが集まっているので、仮にそれらが機能しなくなった場合の被害は大きいです。そのために、政府では首都直下地震の対策として数多くの施策が行われています。

首都直下地震に向けた行政中枢機能の確保

東京には行政がありますが、首都直下地震によってその行政が機能しなくなることは何としてでも避けなければなりません。災害対応を指揮する上での重要なこの行政中枢機能を維持するために、非常時優先業務の実施に必要な執行体制および執務環境の整備が行われています。

首都直下地震に向けたインフラの耐震化等

首都圏にはたくさんの人が暮らしており、仮にライフラインや交通インフラが機能しなくなると、多くの人が生活に困ることになってしまいます。この問題を解決するためには設備の耐震化、多重化、機能の早期復旧が重要になってきます。
具体的には、送電・発電システムの耐震性の向上や供給裕度の確保、ガス供給に支障が生じないように高い耐震性を持つ導管の普及、水道の基幹菅路である導水管、送水管、排水本管の耐震化が進められています。
また、電話など通信機能を確保するために、通信回線について被災リスクが低い「とう道」に収容して、多ルート化を行ったり、緊急輸送道路の多重化・耐震化が進められたりしています。

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首都直下地震に向けた建築物の耐震化

地震によって多数の人が利用する公共施設などが崩れないように耐震化も進められています。特に災害時に避難所などとして活用が想定されている小中学校などでは耐震化が進められています。

首都直下地震に向けた火災対策

地震が発生すると火災がそれに合わせて発生することが過去の災害から想定されています。そのために感震ブレーカーを設置することで出火防止を図り、初期消火を行うために地域防災力の向上や防火設備の確保も行われています。また、延焼を防ぐための都市づくりについても対策が進められています。

首都直下地震に向けた応急体制の整備

首都直下地震が発生した際には、災害に関する各機関がそれぞれの役割を果たすことが期待されていますが、各災害機関が地震発生時には応急活動や防災拠点として何をしなければならないか具体的な計画を作成し、体制を構築しています。
また、緊急消防援助隊や警察災害派遣隊、TEC—FORCEなどの災害対応のエキスパートとの連携についても、広域的な応援体制の充実・強化が行われています。

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首都直下地震に向けた交通対策

災害時には道路交通が麻痺して人命救助や消火活動に支障が生じることがあります。そのための防災対策として、最適な道路啓開のための優先順位付けや調整の仕組み構築が行われています。また一般車両の規制や誘導、放置車両の円滑な処理などについても対応が考えられています。

首都直下地震に向けたその他防災対策

首都直下地震に向けてその他にも様々な防災対策がされています。災害状況を的確かつ迅速に伝えるためにホームページやSNSの整備、膨大な数の避難者へ対応するために避難所の環境整備、自宅避難者の生活環境確保などがされています。
他にも、一斉帰宅を抑制するための対策や、一時収容の促進、民間施設を利用した一時滞在施設の確保どの帰宅困難者に向けた対策も行われています。
住民に対しては初期消火や車両の利用自粛、3日分の食料備蓄が勧められており、企業に対してはBCP作成が推奨されています。
2020年には東京オリンピックもあるので、外国人観光客のための避難誘導の取り組みも行われています。
以上、首都直下地震について、そもそも首都直下地震とは何か、首都直下地震に備えてどんな防災対策がされているのか、などについて見てきました。

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宅地耐震化推進事業とは?地震による被害を軽減するために


国土交通省の首都直下地震対策計画とは何か

そもそも国土交通省の首都直下地震対策計画とは何かをひとことで言うと、首都直下地震に備えて国土交通省が作成して実行している防災計画になります。
国土交通省は「国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部」及び「対策計画策定ワーキンググループ」を設置しており、「首都直下地震対策計画」を策定しています。
特に首都直下地震で大きな被害を受けることが想定されている東京ではオリンピックが開催されるので、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催を一つの目標として防災体制の整備に取り組んでいます。
国土交通省では首都直下地震対策計画を作成するに当たって、下記の7つのテーマを中心に取り組みを行っています。

首都直下地震対策計画テーマ①:地震や津波から首都圏に暮らす多くの命を守る

首都直下地震では東京都の都心部を中心に、家屋等約18万棟が全壊し、特に環状6号線~8号線の間など木造住宅密集市街地を中心に、大規模な火災延焼で最大約41万棟が焼失することが予測されています。
そのために広範囲に存在する木造住宅密集市街地のうち「地震時等に著しく危険な密集市街地」における対策を進めています。

首都直下地震対策計画テーマ②:過密な都市空間における安全を確保する

首都圏の鉄道利用者は、地震発生時最大で約180万人。羽田空港は滑走路閉鎖で約45機が着陸不能になり、道路施設の損傷、放置車両等による幹線道路の深刻な渋滞等が発生し、緊急車両の移動が阻害され被害が拡大する可能性もあります。
首都直下地震で強い揺れが想定される地域において、利用者が多い等一定の要件を満たす鉄道施設については、耐震対策を推進しています。

参照記事
首都直下地震の被害想定と応急対策に関する計画について

首都直下地震対策計画テーマ③:膨大な数の被災者・避難者の安全・安心を支える

避難者は発災2週間後に最大720万人。膨大な需要に対し、食糧不足は最大で3400万食になると予測されています。そのために総合力を活かした災害支援物資輸送を実施する必要があり、基幹的広域防災拠点、羽田空港、荒川等を活用した災害支援物資輸送計画を策定しています。

首都直下地震対策計画テーマ④:地震後の二次災害や複合災害にも備える

首都直下地震では海抜ゼロメートル地帯において排水機場の機能不全等で浸水被害が発生したり、住宅密集地区で土砂崩落が発生したり、余震や地震後の降雨により被害が甚大化したりする可能性があります。
そのために、江東デルタを対象とした河川堤防等の緊急復旧計画や排水計画を策定し、土砂災害の拡大に対し、災害リスク評価に基づいた重点的な緊急点検・応急対策の実施体制を強化しています。

首都直下地震対策計画テーマ⑤:我が国の首都中枢機能の麻痺を防ぐ

首都直下地震では、首都高速道路が通行不能、 非耐震岸壁が港湾機能を失う可能性があります。そのために、災害時にネットワーク全体で緊急輸送道路として機能することが期待される首都圏3環状道路の整備を推進しています。

(首都直下地震対策計画:国土交通省HPより引用)

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首都圏における大規模水害の被害想定とその対策について

首都直下地震対策計画テーマ⑥:首都中枢機能の被害はあらゆる手段で迅速に回復させる

首都直下地震では、復旧工事の集中・輻輳が発生して、工程調整や資機材や施工ヤード不足、地権者との調整などにより工期が大幅遅延する可能性があり、1日のべ4,000万人の輸送を担う鉄道の運行停止が長期化し、首都圏の企業活動が停滞することが想定されています。
そのために、関係機関とインフラ緊急復旧に係る訓練及び協定の締結を推進しています。

首都直下地震対策計画テーマ⑦:長期的な視点に立ち、時代に即した首都圏の復興を目指す

首都直下地震によって早期復旧に重点が置かれすぎると、長期的なインフラ整備や将来的な災害の備えに影響が生じ、各施設管理者や自治体 等による復興計画の策定が遅れ、首都圏全体の復興に影響が生じる可能性があります。
そのために、あらかじめ国土やインフラの今後の方向性を明確に示し、事前の防災まちづくり計画等の作成支援などを行っています。
以上、首都直下地震対策計画について、そもそも国土交通省の首都直下地震対策計画とは何か、首都直下地震対策計画の内容、などについて見てきました。
首都直下地震は日本の中枢機能のある東京を直撃する地震であり、事前に防災対策をとっておくことで被害をできるだけ少なくすることが必要になります。

参照記事
首都直下地震に備えて行われている主な防災対策について

参考サイト▪︎国土交通省「国土交通省における南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策」▪︎内閣府「首都直下地震の被害想定と対策について」