インシデント・コマンド・システム(ICS)とは何か?
災害が発生した際にどのようにマネジメントしていくのかについてアメリカを中心に世界各国で採用されているシステムとしてインシデント・コマンド・システム(ICS)というものがあります。厳密には災害だけでなく、どのようなものであれ発生した危険に対して対応するためのシステムなのですが、危機対応を行う上での有効性の高さから多くの先進国で活用されています。
日本ではあまり馴染みがありませんが、今回はそんなインシデント・コマンド・システム(ICS)について、そもそもインシデント・コマンド・システムとは何なのか、インシデント・コマンド・システムの組織図はどのようなものか、などについて書いていこうと思います。
インシデント・コマンド・システム(ICS)とは何か
そもそもインシデント・コマンド・システムとはひとことで言うと、危機対応時に組織をマネジメントするためのシステムです。災害もそうですがあらゆる危機対応に応用できることから、アメリカをはじめ、ヨーロッパ諸国などの先進国で幅広く活用されています。
インシデント・コマンド・システムはもともとアメリカのカリフォルニア州で多発する山火事に対応するために生まれました。ニュースで見たことがある人も多いかと思いますが、カリフォルニアは山火事が多く発生します。
そんな山火事に対応するうちに次第に危機対応に対してどのように組織をマネジメントしていくのが効果的なのか標準化されていくようになり、1970年代にインシデント・コマンド・システムは作られました。
その後、1980年代にはアメリカ中の森林火災でインシデント・コマンド・システムは利用されるようになり、1990年代には森林火災を超えてあらゆる災害を含めた危機対応で活用されるようになりました。
2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロにおいてもインシデント・コマンド・システムが活用され、それによって被害を抑えることができたことが注目されました。
インシデント・コマンド・システム(ICS)の組織図
インシデント・コマンド・システムは「指揮者(COMMAND)」「事態対処(OPERATIONS)」「対策立案(PLANNING)」「後方支援(LOGISTICS)」「総務(FINANCE/ADMIN)」の5つのグループから成り立ちます。
(インシデント・コマンド・システム:wikipediaから引用)
指揮者(COMMAND):①インシデント・コマンド・システムの組織図
まず災害のマネジメントをしていく上でそのトップに立つ指揮者がいます。指揮者は災害対応における全責任を取り、組織全体の指揮調整を取っていきます。いわゆるリーダーであり、全体を見ながらマネジメントをしていきます。
事態対処(OPERATIONS):②インシデント・コマンド・システムの組織図
事態対処はいわゆる災害対応を行う現場です。指揮調整を行っている人の命令に従いながら、災害現場で実際に手足を動かして対応していきます。
対策立案(PLANNING):③インシデント・コマンド・システムの組織図
対策立案とは指揮者に対して災害対応全体を考える上でのサポートを行うようなものです。具体的には災害情報の収集と状況分析、資源のトラッキングなどを行います。
後方支援(LOGISTICS ):④インシデント・コマンド・システムの組織図
後方支援では通信手段や食料などの供給を行ったり、資器材の手配を行なったりします。
総務(FINANCE/ADMIN):⑤インシデント・コマンド・システムの組織図
総務では経費関連や契約書関連などのいわゆる書類の処理を行っていきます。災害対応という緊急事態とはいえ役所の仕事であるのに違いはないので、書類の管理は重要になってきます。
このようにインシデント・コマンド・システムでは災害対応でやらなければならない機能を5つに分けて考えていきます。この考え方自体が標準化されていることから、異なる組織感であっても意思疎通がしやすかったり、役所の部署ではなくて機能で対応できることができたりすることがメリットとしてあげられています。
災害現場の担当者の作業を交代制にする重要性
大規模な災害が発生すると行政はその対応で普段とは比べものにならないほどの忙しさになります。街の人はかつてないほど地方自治体に頼り、場合によっては対応が悪いとマスコミなどからバッシングを受けることもあります。
そのために地方自治体で働いている職員は災害が発生すると尋常ではない量の業務をこなし、かつ経験したことのない業務なので精神的にも肉体的にも疲弊してしまいます。行政側の管理者も災害対応には慣れていないので、緊急事態だからという理由だけで現場の担当者にあまりにも無茶をさせてしまうことがあります。
当然災害時には行政職員は頑張る必要があるのですが、限度を超えた頑張りは現場の担当者を苦しめて時にはそれが原因で二次災害が発生することもあります。そのため、災害現場の担当者の作業を交代制にすることが重要になります。
大規模災害が発生すると現場の行政職員はその対応に追われ、大量の業務を行う必要が出てきます。さらにその業務は場合によって被災して資源に制限がある中で行う必要が出てきますし、そもそも行政の担当者自身も被災者であり、中には家族の安否がわからない中で対応をする人も出てきます。
そんな精神的にも肉体的にも限界にきている中で、災害時だからということで現場の担当者に無茶をさせ過ぎると、そこから担当者のミスで二次被害が発生したり、担当者そのものが限界にきてしまったりする可能性もあります。
しかし、事前に災害対応の体制について計画を立てて対応することで、現場の担当者についても交代制で無茶させることなく現場対応を行うこともできます。
ICS(インシデント・コマンド・システム)の中でも災害対応者の交代制についてはその重要性が説かれています。
緊急事態だからというのを言い訳にして現場の担当者を酷使することなく、計画的かつ効果的な災害対応を行うためにも現場担当者を交代制にする必要があるのです。
災害現場の担当者の作業を交代制にする方法
では実際にどのように災害現場の担当者を交代制にするのかICS(インシデント・コマンド・システム)を参考にしながら考えていきたいと思います。
具体的な作業時間としては8時間〜12時間くらいを目安にすると良いと言われています。ただし場合によって24時間対応で行う必要があるので、ある災害対応チームの就業終了時間が近づいてきたら30分ほどかけて引き継ぎ作業を行って別の災害対応チームに引き継ぐ必要があります。
業務の引き継ぎに関しては業務日誌の記載を義務付けるという方法もあります。業務日誌に行った作業内容について記録することで、引き継いだ次の担当者も自分がいない間に何が変化したのかを理解することができます。
他にも考えられることとしては、業務に担当者を割り当てるという考え方を身につけることも重要です。行政ですと部署や課ごとに縦割り行政されており「◯◯課にはこの作業をしてもらう」という風に担当グループに仕事を割り当てる傾向にありますが、逆の発想で、仕事に対してどの担当者を割り当てるのかを考えることも交代制で災害対応を行うためには重要です。
以上、災害時に担当者を交代制にする重要性とその方法について見てきました。担当者に無茶をさせると短期的には勢いよく災害対応できるかと思いますが、長期的にはどこかで限界がきてしまいます。中長期的な視点から災害対応を行うためにも、担当者の交代制については意識すべきなのではないかと思います。
以上、インシデント・コマンド・システム(ICS)について、その概要と組織運営の方法について見てきました。インシデント・コマンド・システムは日本ではまだまだ馴染みがありませんが、他の先進国では標準になりつつある災害対応の方法であり、日本もこのシステムから学べることが多いと言えます。