防災訓練とは?職員向けと一般住民向けにゴリラでも分かるように解説

大きな災害が発生すると一気に日常から非日常へと変化します。自治体や民間企業の職員の場合にはとりあえず災害対策本部を立ち上げて、防災計画や防災マニュアルを引っ張り出してきます。
災害発生時に防災計画や防災マニュアルをしっかりと使いこなすことができるかは、事前にそれらの防災計画や防災マニュアルに基づいてどれだけ防災訓練を行い、PDCAを何度も回して実際に使えるものになっていたかによってその後の災害対応が大きく変わります。
一般住民の場合にはとりあえず自分と家族の安全を確認するものの、自分の自宅にいたのでは危なそうなので避難所へ向かうこともありえますが、避難所がそもそもどこにあるのかなどは防災訓練をしておくといざという時にスムーズに避難できます。
このように防災計画は、災害発生時に災害対応を行う必要のある自治体の職員にとってももちろん大切ですし、災害から自分と家族の身を守るために一般住民にとっても大切なものになります。
今回はそんな防災訓練について、そもそも防災訓練とは何か、防災訓練の現状はどうなっているのか、自治体職員向けの防災訓練には何があるのか、一般住民向けの防災訓練には何があるのか、効果的な防災訓練のポイント、などについてゴリラでも分かるように書いて行こうと思います。

防災訓練とは何か

そもそも防災訓練とは何かをひとことで言うと、災害に備えて事前に訓練をしておくことです。ほとんどの人が小学校の頃に防災訓練で地震が発生したと想定して机の下に隠れてしばらくした後に校庭に避難する防災訓練をしたことがあるのではないでしょうか。
これも立派な避難訓練であり、このような防災訓練をすることで災害時にはスムーズに避難することができます。これは一般住民向けの防災訓練の1つですが、防災訓練にはこのほかにも数多くの種類があります。
一般住民向けの防災訓練では、それぞれの住民が自分とその周辺の命を守るためにどう避難・救助をするのかについてトレーニングしますが、自治体職員向けの防災訓練では、自治体の住民全体を災害から守るためにはどうすれば良いのかをトレーニングします。
また、トレーニングの内容も大きく、実際に体を動かして避難行動などを行う実働訓練と、机の上に模造紙や地図などを広げて擬似的に行う図上訓練に分けることができます。

防災訓練が対象とする災害の種類も多種多様であり、地震、洪水、火山活動のような自然災害から、火災、人為事故、感染症、テロなどあらゆるリスクを対象にしています。
関東大震災が発生した9月1日は日本では「防災の日」となっており、毎年日本全国で防災訓練が行われ、首相や全閣僚が参加対象である総合防災訓練もこの日に行われます。
そもそも防災訓練を行う目的としては、災害対応に関する知識やノウハウを習得することや、災害対応を実際にどのようにやって行くのかイメージをつけることができることや、災害対応を一緒に行う人たちと事前に顔の見える関係を作ることができることなどがあげられます。
このように防災訓練は災害から身を守るためには重要なトレーニングであり、防災訓練を行うことでいざ災害が発生したらどう行動すべきなのかを確認することができます。

防災訓練の現状について

防災訓練の種類は大きく実働訓練と図上訓練に分かれますが、消防庁が平成28年に行った「地方防災行政の現況」によると、図上訓練よりも実動訓練の割合の方が圧倒的に高いです。
また対象とする災害の種類についても地震・津波を対象にしたものが多く、風水害と土砂災害がそれに続きます。
一方で防災訓練に対しては日本で似たような悩みを抱えているところが多いようです。毎年のように地震・津波に対する避難訓練などの実動訓練を行なっており、正直マンネリ化が進んでいて参加者のモチベーションを保つことができないと言う悩みが多いです。
防災訓練のマンネリ化を解決したり、より効果的な防災訓練を行ったりしたいのだが、そのための方法やノウハウが不足していると言う悩みを抱えている団体も多いようです。
本サイトはそのような悩みを解決したいという想いから作成しておりますので、後述の防災訓練の種類と特徴を参考にしながら今後の防災訓練に活かしていただければと思います。
このほかにも防災訓練に関しては、忙しくてそもそも防災訓練を企画・準備する余裕がない、参加者が少なくいつも同じ人が参加している、地域によって異なる災害特性を反映させることが難しい、などといった悩みを抱えているところが多いようです。

自治体職員向けの防災訓練

防災訓練は「自治体向けの防災訓練」と「一般住民向けの防災訓練」に分けて考える必要があります。まずは自治体向けの防災訓練について詳しくみて行こうと思います。
地方自治体は災害が発生した際に住民を守るために災害対応をして行く必要がありますが、自治体向けの防災訓練を行う目的は、災害対応能力を高めて住民を災害から守るためです。
自治体向けの防災訓練は大きく実動訓練と図上訓練に分けることができるので、それぞれについて詳しくみて行こうと思います。

自治体職員向けの実動防災訓練

災害対策本部設置防災訓練

大規模な災害が発生した際には自治体に災害対策本部が設置されて災害対策本部で災害対応の指揮が取られます。そのために災害対策本部を適切に設置して運営して行くことは重要です。
また細かい話ですが災害対策本部のレイアウトにも十分な配慮をする必要があります。災害対策本部では指揮調整部門、事案処理部門、情報作戦部門、広報部門、連絡調整部門など、いくつかの部門が設置されることが一般的ですが、それぞれの部門を災害対策本部の会議室内のどこに配置するか、ホワイトボードはどこにどのように置くか、被害状況の全体像が分かる地図はどこに置くか、など災害対策本部の空間利用は事前にしっかりと考えて置く必要があります。
そのほかにも災害対策本部設置防災訓練では、災害発生から職員招集などの体制構築をスムーズに行うことができるのかなども確認して行きます。

参集防災訓練

災害対応を行うのはヒト(職員)であり、災害発生から災害対応を行う首長などの重要人物や職員をできるだけ早く参集できるかどうかは重要です。
参集するにあたって連絡系統は誰がどのツールを使ってどのレベルの災害が発生したら行うのかを事前に決めており、そのルールにしたがって職員参集ができるのかどうかを防災訓練で行います。

避難場所解説防災訓練

大きな災害が発生する可能性がある、または既に発生した場合には、住民を安全な場所へと避難させる必要があります。そのために避難場所を利用しますが、避難場所を利用するにはその前に避難場所を開設する必要があります。
住民を避難させる必要が出てきた場合には、一刻も早く避難場所を開設する必要があるのですが、事前に避難場所解説防災訓練をしておくことで、より迅速に避難場所を開設することができます。

通信機器操作防災訓練

災害時には通信機器をスムーズに動かせるのかどうかも重要です。災害時には避難行動を住民に促すために防災行政無線などの通信機器を活用しますが、それらの通信機器がしっかりと動くか、操作方法はどうするのかなどを事前に防災訓練して確認しておくことが重要です。

自治体職員向けの図上防災訓練

防災グループワーク訓練

自治体職員向けの図上防災訓練で最も手っ取り早くできるのが防災グループワーク訓練です。防災グループワーク訓練では、最小限の災害条件などの状況付与をもとに、5〜6人くらいで1グループを作ります。
グループを作ったら、どんな被害が発生して、それに対して自治体の防災職員やその他の災害対応を行う職員でどうやって対応していこうかを予想して行く防災訓練です。
災害対応の方法について具体的に検討していく中で、防災計画の詰めきれていない部分や、改善しなければならない部分が見えて来ます。
他の自治体職員向けの図上防災訓練にも言えることですが、防災訓練をした中で防災計画や防災マニュアルで記載内容に改善が必要な部分については積極的に改善をして行くことでPDCAサイクルを回し、より現実味のある防災計画・防災マニュアルを作成して行きます。

図上シミュレーション防災訓練

図上シミュレーション防災訓練は防災グループワーク訓練よりも、もう少し手の凝った防災訓練になります。防災グループワーク訓練では災害状況の状況付与が必要最低限でほとんどありませんでしたが、図上シミュレーション防災訓練では、実際の災害に近い場面をしっかりと設定します。
1グループは6〜8人くらいで行い、コントローラーとプレイヤーに分かれます。コントローラーはプレイヤーに対して災害の状況付与を時系列的に次々に行なって行きます。
はじめは「台風が近づいて来ており気象庁からは○○という警報が出ている」などの状況付与から始まり、「台風が上陸して○○川が決壊しました」や「○○町の住人からおばあちゃんとの連絡が取れなくなったけどどうしたら良いかというお問い合わせ電話がきました」などといった状況付与を実際の災害に照らし合わせるような形でどんどんして行きます。
プレイヤーはこれに対して自治体としてどんな判断をして行くのかをどんどんコントローラーに報告して行きます。与えられた状況付与に対していかに対処して行くのを防災訓練して行くことができます。
このように図上シミュレーション防災訓練はロールプレイング方式で行って行き、プレイヤーに対しては事前にシナリオを知らせずに行うので、より臨場感を持って防災訓練を行うことができます。

防災クロスロード

防災クロスロードはよりゲーム感覚で自治体職員向けの図上防災訓練を行うことができます。災害対応ではジレンマを伴う大きな決断の連続であり、防災クロスロードは阪神・淡路大震災で実際に災害対応を経験した神戸市職員の体験をもとに作成されています。
「避難所に3,000人の被災者が集まったものの、現時点では2,000人分しか食料がありません。まず2,000食分を配ってしまいますか?」などといった正解が分からず、実際にその場面に出くわしたら判断に迷いそうな問題カードがたくさんあります。
グループでこれらの問題についてYESかNOで答えて行き、多数派意見と少数派意見(尊重意見)でそれぞれの意見を答えていきます。それぞれの問題で特に正解がある訳ではないのですが、他の参加者の意見を聞くことで災害対応について学ぶことができます。
以上が代表的な自治体職員向けの防災訓練になります。実働防災訓練と図上防災訓練を組み合わせることによってより費用対効果の高い防災訓練を行うことができます。

一般住民向けの防災訓練

一般住民向けの防災訓練についても大きく実働防災訓練と図上防災訓練に分けることができます。小学校でやるような避難訓練はまさに一般住民向けの防災訓練の中の実働防災訓練の中の一つです。
一般住民向けの防災訓練では地震を想定した避難訓練がおそらく最もメジャーですが、このほかにも防災訓練をする方法はいくつかあるので、色々と試してみることで防災訓練のマンネリ化を防ぐことができるかもしれません。

一般住民向けの実動防災訓練

避難訓練

一般住民向けの実動防災訓練で最もよく行われるのが避難訓練です。避難訓練では地震などの災害が発生したと想定して、まずは机の下などに身を隠し地震が収まるのを待ちます。
地震が収まったら自分と家族の安否を確認し、場合によっては指定された避難所などまで避難します。避難訓練を通して、自分たちの身にもいつか災害が襲ってくるかもしれないという防災意識を持たせることができます。
また、実際に災害が発生した場合の避難所などを確認しておくことで、いざ災害が発生した際にスムーズに避難行動を行うことができます。

初期消火訓練

一般住民向けの実動防災訓練では初期消火訓練もよく行われます。初期消火とは火災が発生した際に広がるまでの段階に火を消すことであり、一般的に初期消火は天井に火がまわる前までと言われることが多いです。
ただし実際にはまわりに可燃物があったり、乾燥している時期であったりする場合には火が一気に広まる事もあるので注意が必要です。
初期消火訓練では消化器の使い方を学んで実際に消化器を使ってみて火を消してみたりします。消化器はよく見かけますがが一度使ったことがあると、いざという時により迅速に消火活動をすることができます。

応急救護訓練

応急救護訓練は目の前で倒れている人などを応急救護するための防災訓練です。災害発生時にはその衝動で近くの人が倒れてしまう事もあり得ます。その場合に応急救護をすることができれば人の命を救うことができるかもしれません。
応急救護訓練は、心肺蘇生法として胸骨圧迫や人工呼吸の仕方を学んだり、AEDの使い方を学んだりします。
心肺蘇生法にしてもAEDにしても、練習したことがなければなかなかいざという時に行うことができないので、応急救護訓練を通して、周りの人を助ける方法を訓練しておくことは有効であると言えます。

救助訓練

救助訓練では例えば地震によって家が崩れた場合に人がその下敷きになったとして、その人を救助する方法などを訓練します。テコの原理を利用して家の下敷きになった人を救出したり、けがを負った人を搬送する方法を学んだりします。
避難訓練、初期消火訓練、応急救護訓練の3つは小学校や会社の防災訓練、自動車の教習所などでやったことがあるという人も多いかと思いますが、救助訓練を経験したことがある人は少ないかと思います。
あまり経験したことがある人がいない分、救助訓練をすることで防災訓練に参加する住民は今までには経験したことのない防災訓練を積むことができるかもしれません。

シェイクアウト防災訓練

シェイクアウト防災訓練は、地震に対する防災訓練であり、防災訓練のために地震が発生する想定日時を事前に決めておき、参加者が一斉に身を守るために姿勢を低くしたり、机の下で身を守ったりするものです。
もともとはアメリカ発祥の防災訓練なのですが、あらゆる団体が同時刻に一斉に防災訓練を行うことから、一体感を持って防災訓練をすることができるのがシェイクアウト防災訓練の特徴です。
防災訓練の内容としては、地震が発生したら身を低くして落下物に注意をしようという単純なものです。
日本でも最近はシェイクアウト防災訓練を取り入れている団体も多く、数百万人が参加するような大規模な防災訓練になっています。

発災対応型防災訓練

発災対応型防災訓練とは体育館などの会場で行う防災訓練とは違い、実際に街中で行う防災訓練です。シナリオのない防災訓練などとも呼ばれております。
訓練が始まると市街地のいたる所で負傷者発生、建物崩壊、火災発生、などの災害イベントが発生し、住民一人一人がその場で近くの人と協力して、発生した災害イベントの解決のために取り組んで行きます。
発災対応型防災訓練に参加した住民は、出くわしたその場の状況、各自の判断で行動しなければならないために、実際の災害に対して即時対応能力を養うことができます。

一般住民向けの図上防災訓練

災害図上訓練DIG

災害図上訓練DIGはDisaster Imagination Gameの略であり、直訳すると「災害想像ゲーム」です。一方でDIGとはもとも英語で「掘り起こす」という意味であり、防災意識を掘り起こすという意味も掛けられています。
災害図上訓練DIGではまず地図上にビニールシートを敷いて、災害によって危険になりそうなエリアを書き込んで行きます。次にその問題についてどのようにして対処していくのかをグループワークで討論して行きます。
1グループ10人前後で行い、ゲーム感覚で視覚的にも分かりやすく地図上で防災訓練をすることができることができるのが災害図上訓練DIGの特徴です。
手軽に町全体を見渡しながら参加者で意見を出し合って防災訓練を行うことができるので、有効な一般住民向けの図上防災訓練の一つと考えられています。

避難所HUG

避難所HUGは避難所の運営を擬似的に体験することができるカードゲームのようなものです。避難所には災害から逃げてきた多種多様な住民が限られた制約の中で共同生活をすることになるので、当然多くの問題が出てくるものです。
避難所HUGでは避難所を運営していく中で発生する可能性が高い問題について事前に体験をすることができます。具体的には避難者の年齢、性別、国籍やそれぞれの悩みの書かれたカードを、避難所に見立てた平面図に配置して行きます。また避難所で起こる様々な出来事にどう対応して行くのかについても模擬的に体験することができるというものです。
東日本大震災の際には、いくつかの小学校で避難所HUGの防災訓練を町内会、PTAなどで行なっていたことが実際の避難所運営に大きな効果をもたらしたと言われています。

効果的な防災訓練のポイント

効果的な防災訓練を実施して行くにあたってはいくつかのポイントがあります。何より大事なことは、防災訓練の対象者とその目的をしっかりと明確にしておくことです。
防災訓練の対象者とその目的をはっきりとさせることで、今までにご紹介してきた数ある防災訓練の中から何を実施するべきなのかが自ずと見えてきます。
企画準備をする段階では、参加規模よりも防災訓練の内容を重視し、過去にその地域で発生した災害を風化させないように調査し、外部アドバイザーなどを活用するなどして防災訓練のクオリティを向上させます。
また住民を巻き込む防災訓練の場合には、防災訓練の企画準備の段階から地域住民に積極的に参加してもらいます。
防災訓練で対象とする想定シナリオですが、地域の地理的な条件や過去の災害から適切な想定シナリオを考え、実際の災害対応の動きに合わせて防災訓練を行って行きます。
また、防災訓練を行って失敗した点やうまく回らなかった点などはなぜうまく対応することができなかったのかを考え、場合によっては防災計画や防災マニュアルの改善に役立てて行く必要があります。
防災訓練をやりっぱなしにするのではなく、そのノウハウや教訓を蓄積して行き、防災力を向上させるための材料に友好的に活用していきましょう。

終わりに

以上、防災訓練について、そもそも防災訓練とは何か、防災訓練の現状はどうなっているのか、自治体職員向けの防災訓練には何があるのか、一般住民向けの防災訓練には何があるのか、効果的な防災訓練のポイント、などについて見てきました。
防災訓練はワンパターンになるとマンネリ化して参加者のモチベーションも下がって行き、効果的な防災訓練を行うことができません。効果的な防災訓練を行い、いざ本当に災害が発生した場合に対応できるようにしておくことが重要です。