災害エスノグラフィーとは?災害現場のリアルな声から学ぶ

大きな災害が発生すると被災地では何があったのかマスコミによって毎日のように取り上げられます。地震によって壊れた家や、避難所にいる被災者の映像などが流され、災害の悲惨さが報道されます。
被災地では一体何が起こっているのかをマスコミの報道からでも情報を仕入れることはできますが、災害対応をしている現場の人間はいったい災害のフェーズごとに何をしていたのかリアルな状況を知るにあたっては「災害エスノグラフィー」が役に立ちます。
今回はそんな災害エスノグラフィーについて、そもそも災害エスノグラフィーとは何か、災害エスノグラフィーの特徴、災害エスノグラフィーを活用した防災研修、などについて書いていこうと思います。

災害エスノグラフィーとは何か

そもそも災害エスノグラフィーとは何かをひとことで言うと、実際に災害対応をした職員に対して当時の災害対応についてどのようなことをしたのかインタビューを行い、教訓や知識を学ぶというものです。
もともとエスノグラフィーは直訳すると「民族誌」です。民族誌とは特定の民族や集団が持っている異文化を具体的かつ体系的に記録したものであり、一見災害とは何の関係もなさそうな気もします。
しかし、災害対応も通常に生活していたら絶対に経験しないような異常な事態であり、災害の対応に当たった職員は、想像すらしていなかった多くの困難に直面します。その困難に対して知恵を出し合い、時には失敗をしながらも災害を乗り越えていきます。

この経験やノウハウをその場限りで終わらせてしまうと、あまりにも勿体無いので、今後の災害にも活かすために災害エスノグラフィーは役に立ちます。
災害エスノグラフィーを通して、災害対応のプロセスのうち知識としてはなかなか共有化することが難しい「暗黙知」を体系的に整理し、暗黙知を形式知に変えることができます。
災害エスノグラフィーを作成するに当たってはインタビューアの質問に対して災害対応をしたインタビュー対象者が返答するような形で進みますが、基本的にインタビュー対象者が話し続けるように持っていく必要があります。
インタビュー対象者から聞いた話はレコーダーで録音し、そのまま文字起こしをすることで、災害エスノグラフィーが出来上がります。
完成した災害エスノグラフィーをまだ災害対応をしたことがない人や防災について学んでいる段階の人が見ることで、災害対応のリアルなイメージをつけることができ、災害対応の知識について学ぶことができます。

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災害エスノグラフィーの特徴

これから災害や防災について学ぼうという人や既に防災に対して一定の知識を持っている人が災害エスノグラフィーを活用するメリットはいくつかあります。
まず災害エスノグラフィーを読むことで、災害対応のイメージを掴むことができます。過去の災害について調べようと思い、過去の災害についてネットで調べたり新聞を見たりしても、「災害の原因は大雨による土砂崩れで死者○○人」など客観的な数値データなどはわかりますが、実際に災害対応を行った1人の人間が何をしていたのかまでは知ることができません。
災害エスノグラフィーでは実際に災害対応をした職員の体験談が生々しく書かれているので、災害対応では自分は何をしなければならないのかイメージを掴むことができます。
思いもよらぬ災害に直面した時に、体験者はどんな問題で悩み、苦労し、それをどう解決して行ったのか一連の行動や思いの移り変わりを理解することができます。

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災害エスノグラフィーを活用した防災研修

災害対応では防災担当部局だけではなく、すべての部局において災害対応を行う必要がありますが、災害エスノグラフィーでは特定の担当者に限らず、災害対応を行う可能性がある全員が防災研修を行うことができます。
災害エスノグラフィーを活用した研修は、まず職員に災害エスノグラフィーの文章を読んでもらいます。この文章を読むことで、災害対応のイメージをつけてもらい、想定外の事態が多いということを認識してもらいます。
次に災害エスノグラフィーで得たイメージや知識、教訓を通して、自らの防災計画や防災マニュアルを見直してもらいます。災害エスノグラフィーと似たような状況が発生したら果たして自分たちの現状の防災体制で乗り越えられるのかを確認します。
災害エスノグラフィーについては、内閣府HPの中でその手順が公開されています。この中で研修方法や、研修で使える実際の災害エスノグラフィーの文章などが公開されているので、とても参考になります。
以上、災害エスノグラフィーについて、そもそも災害エスノグラフィーとは何か、災害エスノグラフィーの特徴、災害エスノグラフィーを活用した防災研修、などについて見てきました。
災害エスノグラフィーは災害現場のリアルな声を把握する上でとても有効であり、防災に関する教科書的な知識と組み合わせることで、より防災対応力を高めることができます。

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参考サイト▪︎内閣府「防災に関する人材の育成・活用防災に関する標準テキスト」