災害トリアージとは?START法による判定基準について

ナポレオンはフランス革命で知られていますが、戦争では負傷した兵士の中で戦場に再度送り込むかどうかを判定することに長けていたと言われています。第一次世界対戦では大量の兵士が負傷しましたが、医療に優先度をつけることで負傷した兵士に優先度をつけたと言われています。
災害時や大規模事故の発生時には大量の負傷者が発生し、医療機関の限られたリソースではとても対応しきれないと言う状況になることがありますが、その際には一人でも多くの命を救うために「トリアージ」という手法が使われます。
今回はそんな災害トリアージについて、そもそも災害トリアージとは何か、災害トリアージのSTART法という判定基準、災害トリアージの問題点、などについて書いていこうと思います。

災害トリアージとは何か

そもそも災害トリアージとは何かをひとことで言うと、一人でも多くの人を救うために災害による負傷者の重症度と緊急性によって選別して治療の優先度を決定する手法のことです。
あえて極論的なことを言うと、大量の負傷者がいる中において、助かるかどうか分からない負傷者1人に何時間も対応するよりも、助かる見込みの高い負傷者10人に対応して、一人でも多くの命を救おうと言うものです。
トリアージとはフランス語の「triage」から由来しており、「選別」と言う意味を持っています。災害時や大規模な事故現場などで負傷者の治療順番、緊急輸送の順番、運搬先施設の決定などの判断で用いられます。
災害という医療機関のリソースも限られており、時間的な余裕もない際には、災害トリアージの考え方がとても大事になってきます。

参照記事
JMAT(日本医師会災害医療チーム)とは?日本医師会による災害派遣


災害トリアージのSTART法という判定基準

災害トリアージについては標準化が進んでおり、総傷病者数、医療機関の許容量、搬送能力、現場での応急処置、治療に要するまでの時間などの要件で判定されて行きます。
災害トリアージの判定基準をできるだけ客観的に分かりやすくした手法に「START法」というものがあります。
START法では、負傷者が①歩行できるか、②呼吸はしているか、③呼吸数はどうか、④循環状態はどうか、⑤意識レベルはどうか、によって負傷者を、緑色(保留群)、黄色(待機的治療群)、赤色(最優先治療群)、黒色(無呼吸群)に分けて行きます。

(START法による診断フローチャート:Wikipediaより引用)
判定結果はこの4 つの色で表示され、負傷者の右手首に「トリアージ・タッグ」と呼ばれるタグを取り付けます。
緑色は歩行可能で、今すぐの処置や搬送の必要ないもの。完全に治療が不要なものも含みます。黄色は今すぐ生命に関わる重篤な状態ではないが処置が必要であり、場合によって赤に変化する可能性があるものです。
赤色は生命に関わる重篤な状態で一刻も早い処置をすべきものです。黒色は死亡、または生命徴候がなく、直ちに処置を行っても明らかに救命が不可能なものです。

(トリアージ・タッグ:Wikipediaより引用)

参照記事
災害拠点病院と一般医療機関におけるBCP策定方法について

災害トリアージの問題点

災害トリアージは災害という異常事態で医療機関のリソースが限られている中で大量の負傷者に対応しなければならない際に、一人でも多くの命を救うにあたって有効な考え方です。
しかし、一方で災害トリアージに対する批判的な意見も存在しています。極論的な言い方をすると災害トリアージは人の命を優先順位を持って救うかどうかを決めるというものであり、重傷者は見捨てるというのはいかがなものかという意見がまずあります。
また、災害トリアージではSTART法などを活用して負傷者に判定基準を設けますが、場合によってはその判定を間違えてしまう可能性もあります。特に災害直後の混乱した状態では完璧に判定することができない可能性はさらに高まり、後々に法的な責任を責められることもあります。
また、災害トリアージでは4段階で負傷者を判定しますが、例えば同じ赤色の中にも負傷レベルの大小は存在しており、その判別ができないなどの指摘もありあります。
以上、災害トリアージについて、そもそも災害トリアージとは何か、災害トリアージのSTART法という判定基準、災害トリアージの問題点、などについて見てきました。
数多くの指摘はあり一概には言い切れないものではありますが、災害トリアージは災害時に一人でも多くの命を救うためには必要なものであり、災害現場では活用されています。

参照記事
DMAT(災害派遣医療チーム)とは?災害時の医療について

参考サイト▪︎東京都福祉保健局「トリアージ」