避難勧告と避難指示とは?その違いとガイドラインについて

大型の激しい台風が近づいてきて雨脚が激しくなってくると、テレビやラジオで「避難勧告」や「避難指示」といった言葉を耳にすることがります。「避難勧告」も「避難指示」同じような名前をしていますが、中身はかなり異なります。
また、「避難勧告」と「避難指示」に加えてあまり聞き馴染みがないかもしれませんが「避難準備・高齢者等避難開始」という長い名前の発令もあります。今回はそんな避難に関する指示について、避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示の3つの違い、避難行動に関する基礎知識、避難勧告等に関するガイドラインとは何か、避難行動に関する制度について書いていこうと思います。

避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急)の違い

行政から出される発令で住民に対して避難を求めるものは大きく「避難準備・高齢者等避難開始」「避難勧告」「避難指示(緊急)」の3つがあります。実際に災害が発生する可能性や発生するまでどれくらいの猶予時間があるのかによって違いがあります。それぞれの避難に関する発令について詳しく見ていこうと思います。

避難準備・高齢者等避難開始とは何か

避難準備・高齢者等避難開始とはひとことで言うと、ひょっとすると災害がしばらくしてから発生するかもしれないという状況において、避難に時間がかかる高齢者や障害者等を早めに避難させることです。
高齢者や障害者などの要配慮者は避難するまでに時間がかかるので、たとえ災害が本当に発生するのかよく分からない段階であっても、避難準備・高齢者等避難開始を発令して、早めの避難を行います。
要配慮者以外の人であっても、避難の準備を始めたり、もしかしたら災害が発生するのかもしれないなという危機感を持たせたりするという意味でも役に立っています。

避難勧告とは何か

避難準備・高齢者等避難開始よりも事態が悪化してきた場合に発令されるのが「避難勧告」です。避難勧告とはひとことで言うと、住民を災害から守るために指定緊急避難所への避難を促すことです。避難勧告が出たらできるだけ早く避難することが求められています。
すでに雨が強くなっていたり、台風が近づいたりしている場合には、指定緊急避難所への立ち退き避難が逆に危険になることもあります。その場合には、屋内安全確保をしたり、近隣の安全な場所へ避難したりすることも選択肢としては有りえます。

避難指示(緊急)とは何か

避難指示(緊急)とは避難勧告よりも更に災害が発生する可能性が高まった場合に発令されます。いつ災害が発生してもおかしくないような状態において、まだ避難をしていない人を指定緊急避難場所への避難を促します。
ただし、避難勧告にも言えることですが、避難指示(緊急)には法的な拘束力はなく、強制的に住民を避難させることも、避難しないからといって罰則を設けることもできません。
また、避難には幾つもの種類があり、必ずしも指定緊急避難場所へと急いで逃げることだけが避難ではありません。場合によっては自宅待機したり、近隣の丈夫な建物に避難したりすることが最適な場合もあります。

参照記事
洪水予報と避難の関係について!避難勧告のタイミング

避難行動に関する基礎知識

そもそも避難とは当たり前ですが災害から身を守るために行われます。昔までは「避難=避難場所へと逃げること」という認識が強かったですが、過去の災害で多くの人が避難最中に被災し、犠牲になることがありました。
これらの反省を踏まえて、垂直避難という考え方が定着してきました。定着避難とは自宅や職場に待避して屋内安全確保をしたり、近隣の安全な場所に避難したりすることを指します。
しかし、従来の水平避難(立ち退き避難)という考えも当たり前ですが大切です。そのために、どこに避難すれば良いのか、避難行動をとるタイミングはいつなのか、どの避難行動をとれば良いのか、を事前にはっきりとさせておくことが重要です。
立ち退き避難をするのであれば、市町村によって指定された指定緊急避難場所へ避難するのがベストです。注意すべき点としては、土砂災害なのか洪水災害なのかなど災害の種類によって指定緊急避難場所は異なるので、災害毎に適した指定緊急避難場所に行く必要があります。
避難勧告などが出たタイミングでできるだけ早めに指定緊急避難場所へと避難することが原則ですが、立ち退き避難をしようと思っても、大雨や強風でとてもではないが指定緊急避難場所に行くことができないケースもあるかと思います。この場合には無理して指定緊急避難場所に行かずに、近隣の安全な場所に避難するのが最善の選択になることもあります。具体的には鉄筋コンクリートでできた近隣のマンションが良いと言われています。
正しい避難が何なのかは災害のケースや立地条件にもよるので、一概には断言できませんが、どちらにしても事前に災害からの避難に備えておくことが重要です。

参照記事
災害警報や災害避難をする際の基本的な考え方

避難勧告等に関するガイドラインとは何か

市町村が避難勧告について詳しく知りたい際に参考になる資料として内閣府が公表している「避難勧告等に関するガイドライン」がとても役に立ちます。
この避難勧告等に関するガイドラインではその中で避難行動に関する基本的な考え方として指定緊急避難所や指定避難所を設置して住民に周知することや、避難情報の伝達に関する考え方として、対象者ごとに取るべき避難行動がわかるように伝達することが書かれています。
発令の判断基準についても書かれており、例えば土砂災害警戒情報発表が出たら避難勧告を発令するなど、避難勧告をどのタイミングで行うかについても書かれています。また、防災体制全般に関することも書かれています。
なので、災害からの避難に関して詳しく知りたいという人はこのガイドラインを参考にすると良いでしょう。ただし、このガイドラインはあくまで助言であって法的な拘束力はなく、地域それぞれが持つ地理的な実情もあるので、必ずしもここに書かれいていることにしたがわなければならないというわけでもありません。

避難行動に関する制度について

今まで述べてきたように、日本には避難に関する体制が整いつつありますが、この避難に関する今の体制は過去の災害からの学びをもとに作られていきました。
最初に避難への関心が持たれたきっかけが昭和22年の「カスリーン台風」です。この台風によって利根川が氾濫して多くの犠牲が出ました。これがきっかけで「水防法」が制定され、避難の指示について市町村や都道府県で役割が明確に示されました。
次に昭和34年の「伊勢湾台風」では災害対策基本法が制定されて、市町村長が避難の勧告・指示をするようになりました。また昭和57年の「長崎大水害」は記録的短時間大雨情報が始まるきっかけとなりました。
平成になると平成12年に「東海豪雨」が発生して洪水ハザードマップ作成の努力義務化が行われ、平成16年に発生した数々の風水害は要配慮者避難のきっかけになりました。
平成21年になると立ち退き避難中の犠牲に焦点が当たり、屋内安全確保(垂直避難)という考え方が普及しました。平成23年の東日本大震災では特別警報が開始されるきっかけとなりました。
このように現在の災害からの避難に関する体制は過去の被害から反省を踏まえて改善され続けてきているものと言えます。まだまだ改善しなければいけない問題点はあるかもしれませんが、すでに分かっている避難のノウハウについてはガイドライン等を活用して利用することで犠牲を減らすことができます。

参照記事
土砂災害の種類と警報・避難を行うポイントについて

参考サイト▪︎内閣府「避難勧告等に関するガイドライン」