海岸防災林が津波被害を抑制する効果について

津波による被害を防ぐためのハード防災の対策としては、海岸に防潮堤を建設する方法があります。津波が押し寄せてきても防潮堤がその波をブロックすることで街を津波から防ぎます。このように防潮堤は津波からの被害を防ぐために有効な防災対策ですが、津波からの被害をできるだけ小さくするという観点では「海岸防災林」も注目されています。
今回はそんな海岸防災林について、そもそも海岸防災林とは何か、海岸防災林の津波に対する効果、海岸防災林の津波対策以外への効果、などについて書いていこうと思います。

海岸防災林とは何か

そもそも海岸防災林とは何かをひとことで言うと、海岸沿いに作られる海岸で発生する多種多様な災害を防ぐための林のことです。

(海岸防災林:青森県HPより引用)
海岸では、津波、潮害、飛砂、風害などといった特有の災害が多数ありますが、海岸防災林はそれらの災害から、農地や居住地を守るにあたって地域の生活環境の保全に重要な役割を果たします。
海岸防災林は災害対策としての機能を有している以外にも、美しい景観を維持することができるという観点からも、日本の多くの海岸で海岸防災林が導入されています。

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海岸防災林の津波に対する効果

このように海岸防災林は災害対策をする上で有効なのですが、東日本大震災の際には東北地方を襲った津波に対してもその防災効果が発揮されたことで注目を集めました。具体的に海岸防災林の津波に対する効果としては下記の3つがあげられます。

海岸防災林の津波効果①:津波エネルギーの減衰効果

海岸防災林の津波防災への効果として、まず津波エネルギーの減衰効果が挙げられます。
海と市街地の間に海岸防災林があることで、海から来た津波が海岸防災林によって津波の波力を減衰して流速やエネルギーを低下させ、その破壊力を弱めて、陸側の被害を軽減します。

海岸防災林の津波効果②:漂流物の捕捉効果

海岸防災林の津波防災への効果として、次に漂流物の捕捉効果が挙げられます。津波によって船などの漂流物が流されると、その漂流物によって被害を受けることがあります。
しかし、海岸防災林があればその樹木が漂流物の移動を阻止し、移動によって生じる二次的災害を軽減または防止することができます。

海岸防災林の津波効果③:津波到達時間の遅延効果

海岸防災林の津波防災への効果として、最後に津波到達時間の遅延効果が挙げられます。地震が発生してから津波が街を襲うまでに時間的な猶予があり、その間に避難をすることができます。
海岸防災林が存在することで内陸への津波の到達を遅らせることができ、避難をするための時間を稼ぐことができます。
防潮堤は、津波が防潮堤を越えるまでは海水の侵入を完全に抑えますが、津波が防潮堤を越えるとその働きが激減するだけではなく、破堤のおそれがあります。一方で、海岸防災林には、津波の流入を抑える働きはありませんが、流れ込む水に対して抵抗として働いてその波力を減らして到達時刻を遅らせることができます。

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海岸防災林の津波対策以外への効果

このように海岸防災林は津波対策として一定の効果を果たしますが、海岸防災林の効果は津波防災だけではありません。
津波からの被害を防ぐ以外にも、砂浜などから飛んでくる砂を防ぐ効果や、風の強い地域で田畑や住宅などを守る壁の役割を果たして風による被害を防ぐ効果、海岸からの塩分を含んだ風を弱めて田畑への塩害などを防ぐ効果などもあります。
また、防潮堤は海岸に巨大なコンクリートの壁を作るために、まるで刑務所で暮らしているみたいだし、景観が損なわれるために、観光という観点からは微妙であるという意見もあります。
その点で海岸防災林は、景観を維持しながら防災対策を行うことができるというメリットもあります。
以上、海岸防災林について、そもそも海岸防災林とは何か、海岸防災林の津波に対する効果、海岸防災林の津波対策以外への効果、などについて見て来ました。
津波への対策として津波を防ぐための施設を作るハード防災対策は重要ですが、その中の一つの手段として海岸防災林を考慮することも、時には有効なのかもしれません。

参照記事
大津波警報と津波警報と津波注意報の内容と違いについて

参考サイト▪︎林野庁「海岸防災林について」