正常性バイアス(正常化の偏見)とは?災害心理学について

一般的なイメージとして、災害に直面した際には人々は慌てふためきパニックになるのではないかと想像する人が多いと思います。しかし実際にはパニックになるケースは少なくて、むしろその逆で危険なのに焦らずに「どうせ大丈夫」だろうと過小評価して逃げ遅れることがあります。
このことを「正常性バイアス(正常化の偏見)」と言うのですが、災害心理学の世界では大きな問題として取り上げられています。実際に東日本大震災の際などにもこの正常性バイアスによって犠牲になった方が多くいます。
今回はそんな正常性バイアスについて、そもそも正常性バイアス(正常化の偏見)とは何か、正常化バイアスを防ぐために何ができるのか、過去の正常性バイアスの災害事例、などについて書いていこうと思います。

正常性バイアス(正常化の偏見)とは何か

そもそも正常性バイアス(正常化の偏見)とは何かをひとことで言うと、災害などで目の前に危険が迫っていても、正常な日常生活の延長線上の出来事として捉えて、「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」「どうせ大したことない」などと考えてしまう人間の心理的な傾向のことです。
地震、津波、火災などの災害に出くわしても、危険を感じ取ってすぐに行動できる人は実は思いの外少なく、自分はこの災害で死ぬかもしれないと考えて、すぐに逃げることができる人は少ないと言われています。
実際に東日本大震災の津波が街を飲み込む映像でも、後ろから津波が来ているのに走らずに歩いて避難しようとし、津波に飲み込まれてしまう人たちの映像がYouTubeなどで流れていました。

現在の社会は昔に比べると安全で便利な世の中になっており、それに慣れ過ぎてしまい、なかなか災害時に危機対応への自分の対応を変えることができないのです。
災害心理学では正常性バイアスはある種の自我防衛機能と考えられており、災害時でも危険を無視することで心理的なバランスを保とうとするとのことです。

参照記事
スマトラ沖地震、ハリケーン・カトリーナ、9.11における生存者の共通点

正常化バイアスを防ぐために何ができるのか

このように正常化バイアスはある種の自我防衛機能であり、災害時に正常化バイアスなく避難することはそう簡単なものではありません。ある意味いきなり災害が発生してもうまく避難できないのは当たり前なのかもしれません。
このような状況において被災地の住民がうまく逃げるためには「率先避難者」が重要になります。率先避難者とは災害時に自ら率先して危険を避ける行動を起こすことができる人です。
率先避難者が避難することでその周りにいる人にも危険なのだと認識させることができ、結果として周囲の人たち全員が危機意識を持って避難することができます。

過去の正常性バイアスの災害事例

常性バイアスの災害事例①:東日本大震災

東日本大震災では津波避難の警報が出ても避難しない人が多く、実際に津波が目視にて確認できるようになってから避難する人がおり、結果として津波からの避難で逃げ遅れてしまいました。

常性バイアスの災害事例②:大邱地下鉄放火事件

正常性バイアスの問題を語る上で必ずと言っても良いほど事例として取り上げられるのが、韓国で発生した大邱地下鉄放火事件です。
大邱地下鉄放火事件とは地下鉄の火災事故であり、多くの乗客が煙が充満する車内の中で口や鼻を押さえながらも、座席に座ったまま逃げずに留まり、多くの犠牲者が出ました。

常性バイアスの災害事例③:御嶽山噴火

2014年に発生した御嶽山噴火では予測が難しい噴火であったために多くの登山者が巻き込まれて死亡しました。死亡者の多くが噴火後も火口付近にとどまり噴火の様子を写真撮影していたことがわかっており、携帯電話を手に持ったままの死体や、噴火から4分後に撮影した記録が残るカメラもあったそうです。
いずれの事例も「なんだかんだ大丈夫だろう」「まさか自分が災害に巻き込まれることはないだろう」という正常性バイアスが働いていたと考えられます。
以上、正常性バイアスについて、そもそも正常性バイアス(正常化の偏見)とは何か、正常化バイアスを防ぐために何ができるのか、過去の正常性バイアスの災害事例、などについて見て来ました。
正常性バイアスを防ぐためにも、事前に住民に対して防災教育をしっかりと行うことが重要であると同時に、率先避難者の存在が重要になって来ます。

参照記事
プロアクティブの原則とは?危機管理を行う上での考え方

参考サイト▪︎内閣府「風水害の危険! そのとき、 あなたは?」