水害からの防災対策を行う上での基本的な考え方

日本では昔から多くの水害が発生しています。地理的な条件などで水害が発生しやすいこともあり、多くの被害を受けていますが、そのための防災対策も数多く行われています。
今回はそんな水害からの防災対策について、治水の原則、土堤の原則、スーパー堤防、遊水池、放水路、ダム、総合治水対策、特定都市河川浸水被害対策法、など幅広く書いていこうと思います。

水害からの防災:治水の原則について

日本は国土の大部分が山地であり、他の国と比べて川の流れが急であることで知られています。そのために河川が氾濫して被害を受けるという経験を過去に何度もしてきました。
そして過去の災害の中から学んで河川の氾濫を防ぐために「治水の原則」というものが実施されています。この治水の原則とは、「洪水時の河川の水位を下げて洪水を安全に流す」というものです。
河川の水位を下げるというのが、とにかく治水の原則なのですが、河川の水位を下げる方法はいくつかあります。

治水の原則①:河床掘削による水位の低下

水位を下げるためにまず考えられるのが河床掘削による水位の低下です。これは河川の底を掘って、水位を深くすることで全体の水位を低下させるというものです。
河床を掘り下げた分だけ断面積を広げることができますが、海から海水が逆流してくるのを防ぐために潮止め堰が必要になります。

治水の原則②:引堤による水位の低下

水位を下げるためには引堤を行うことも考えられます。これは堤防の横幅を広くするものであり、河川の川幅を広げることで河川の断面積を広げることができます。

治水の原則③:放水路、遊水池、ダムによる水位の低下

この他にも河川の水位を下げるためには、河川そのものに手を加えるのではなくて、河川に水位を低下させるためのものを追加させるという考え方もあります。
放水路による河川の水位低下では、新しく水路を作り洪水をバイパスすることによって河川の水の流量を減らし、結果的に河川の水位を低下させることができます。
遊水池による河川の水位低下では、河川に隣接するエリアで洪水の一時を貯めることによって、河川における洪水の流量を減らすことができます。
ダムによる河川の水位低下では、ダムの貯水池で水を貯めておくことで、下流河川における洪水の流量を減らすことができます。
このように治水の原則はとにかく河川の水位を下げることになります。そのために日本の河川では上記のような多くの水害の防災対策がなされています。

参照記事
水害保険(水災保険)とは?風水害からのリスクに備える

水害からの防災:堤防は土堤が原則

河川の堤防は何百年もの歴史をかけて現在の土堤が自然に出来上がっています。そのために堤防については現在のものを活用するということから土堤が原則になります。
土堤は材料が劣化しないというメリットがあり、地盤変動などにも追随性が高いと言われています。また、土木工事の面から見ても施工しやすく、他の材料よりも土堤が良いとされています。

水害からの防災:スーパー堤防

堤防にはいくつか種類がありますが、その中の一つにスーパー堤防と呼ばれるものがあります。このスーパー堤防とは、ふつうの堤防に比べると横幅の広い堤防になります。

(普通の堤防:江戸川区HPより引用)

(スーパー堤防:江戸川区HPより引用)
上記の図のようにスーパー堤防は横幅が広いのですが、これによってたとえ河川の水量が増して越水しても、堤防の上を緩やかに水が流れるので決壊しにくいです。
また、水が浸透してきても、堤防幅を広く取っているので堤防の斜面・内部の侵食による決壊を防ぐこともできます。
このようにスーパー堤防は当然作るのにその分の料金が割高にはなりますが、水害により強いまちづくりをすることができます。

水害からの防災:土地利用一体型水防災事業

水害からの防災を行うにあたって、河川の水位を低下させるための工事を行ったり、堤防を補強したりすれば良いのですが、現実問題を見るとたとえ洪水が多発しているエリアであっても、治水対策を行うのが困難なエリアもあります。
その場合には、現在使われている土地利用の状況を考慮しながら、輪中堤や宅地かさ上げなどを実施し、水害からの防災を行うこともあります。

参照記事
スーパー堤防(高規格堤防)とは?荒川や江戸川の水害を防ぐために

水害からの防災:遊水池、放水路、ダム

水害からの防災を行うために遊水池、放水路、ダムなどがあります。それぞれ河川の氾濫を防ぐために重要な役割を果たしています。

遊水池

遊水池とは河川に隣接する形で作る池のようなものであり、洪水時に河川の水を一時的に貯めておき、河川の下流における流量を減らすことができ、河川の水位を下げることができます。

放水路

放水路とは河川の途中から分岐するような放水路を新たに作り、河川の水を別ルートで直接海に流したり、他の流量に余裕のある河川に流したりすることができます。

ダム

ダムは河川の水を一時的に貯留しておき、河川の下流における流量を減らすことができます。逆に流量が少ない時にはダムの水を放出することで、水利用を効率的にすることもできます。

水害からの防災:総合治水対策

治水上の安全を確保し、治水設備を整備して河川流域の開発計画を有効なものにするために総合治水対策というものがあります。総合治水対策は大きく、河川改修、流域対策、被害軽減対策の3つに分けることができます。

総合治水対策①:河川改修

総合治水対策では対策特定河川というものがあるのですが、その河川改修事業を積極的に行うというものです。具体的には河道改修や遊水池の整備などがあげられます。

総合治水対策②:流域対策

流域対策では河川流域における適切な保水、遊水機能の維持、などがかかげられており、具体的には保水地域(雨水を一時的に浸透する機能を持つ地域)、遊水池地域(雨水または河川の流水を一次的に貯留する機能を持つ地域)、低地地域(河川の流水が氾濫する恐れのある地域)の3つに分けてそれぞれ治水の対策がされています。

総合治水対策③:被害軽減対策

被害軽減対策では、適切な土地利用の誘導や、流域住民に治水上の問題について理解してもらうように働きかけることがかかげられています。
このように総合治水対策では、治水を行うために数多くの施策が考えられています。

(総合治水対策:国土交通省HPより引用)

水害からの防災:特定都市河川浸水被害対策法

河川の治水に関する法律は、河川法、水防法、下水道法、都市計画法など数多くありますが、その中に「特定都市河川浸水被害対策法」と呼ばれるものがあります。
特定都市河川浸水被害対策法では、「流域水害対策計画」の策定、外水及び内水を対象とした浸水想定区域の指定、開発行為における貯留施設の設置義務付けなどが規定されています。河川の管理者と地方公共団体が一体となった治水対策を図っています。
以上、水害からの防災対策について、治水の原則、土堤の原則、スーパー堤防、遊水池、放水路、ダム、総合治水対策、特定都市河川浸水被害対策法、など幅広く見てきました。
水害による被害を少しでも減らすためには、ハード防災とソフト防災をしっかりと行うことが重要になります。

参照記事
首都圏における大規模水害の被害想定とその対策について

参考サイト▪︎内閣府「水害被害(風水害・土砂災害)」