男女共同参画の観点から災害対応を行う際に気をつけること

過去の災害対応では時に女性への配慮が足りていないと指摘されることが良くあります。男性と女性とでは普段の生活で必要になることも困ることも違ってくる中で、女性への配慮が足りていないゆえに、避難所などでトラブルになることもあります。災害対応に限った話ではありませんが、男女共同参画の観点から行動をすることの重要性が認知されており、防災の分野においてもその重要性が認識されています。
今回はそんな災害対応における男女共同参画について、内閣府男女共同参画局では「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を参考にしながら、災害時の男女共同参画の考え方、災害対応で男女共同参画の点から必要とされる具体的行動、などについて書いていこうと思います。

災害時の男女共同参画の考え方

災害時の男女共同参画の考え方としてはいくつかありますが、その中でも特徴的な4点についてご紹介いたします。

平常時から男女共同参画を推進する

災害時の男女共同参画の考え方として何より大事なのが平常時から男女共同参画を推進することです。災害時だけ男女を意識していたのでは十分な対応ができません。
男女が互いにそれぞれを尊重して生きていくためには、平常時から男女共同参画を取り入れた防災・復興体制を確立していく必要があります。

主体的な担い手として女性を位置付ける

過去の災害では、救援救助、医療、消化活動、復旧・復興の担い手として女性が活躍することは多くありましたが、意思決定の場への女性の参画はまだまだ少ないです。
災害対応において女性が果たす役割は大きいと認識して、女性の意思決定の場への参加や、リーダーとして活躍を推進することが重要になります。

(避難所における救援物資保管状況:災害写真データベースより画像引用)

災害から受ける影響の男女の違いに配慮する

女性と男性では災害から受ける影響に違いがあります。過去の災害で相談窓口に寄せられる相談からは、女性の負担が増大しており、一方で男性は悩みや困りごとを相談しない傾向があります。

男女の人権を尊重して安全・安心を確保する

避難生活において人権を尊重することは女性にとっても男性にとっても必要不可欠です。過去の災害では、間仕切り用パーテションや更衣室がないために、布団の中で周りの目を気にしながら着替えたり、街灯がなく暗い屋外のトイレを利用することに被災者が不安を覚えたりすることがありました。
避難生活の安心・安全を確保するために、女性や子供に対する暴力の予防のための取り組みや、プライバシーを確保できる仕切りの工夫、異性の目が気にならない男女別の更衣室や物干し場などの整備を行うことが重要になります。

参照記事
地区防災計画とは?ガイドラインをもとに解説してみた


災害対応で男女共同参画すべき具体的ポイント

発災前の段階の男女共同参画

まず発災前の段階では、防災に係る政策・方針策定過程における男女共同参画の推進を図るために、防災担当部局の担当職員の男女比率を庁内全体の職員の男女比率に近づけることや、女性職員の登用の促進などが考えられます。
また、防災対策に男女共同参画の視点を反映させるために、地方防災会議における女性委員の割合を高めることや、地域防災計画の作成・修正に女性の参画を拡大することも重要です。
その他にも、物資の備蓄の段階において男女のニーズの違いや子育ての家庭などのニーズを配慮して、必要とされる物資については一定程度の備蓄をするとともに、倉庫業者やコンビニエンスストアなどと協定を締結して災害発生時に速やかに調達・輸送できるようにする必要があります。
同じように自主防災組織においても女性の参画を促進するとともに、リーダーに複数の女性が含まれるように女性リーダーの育成を図ることも重要です。

(柏崎市内(避難所):災害写真データベースより画像引用)

参照記事
仙台防災枠組2015-2030とは?国連の優先行動などについて


発災直後の段階の男女共同参画

発災直後の段階における男女共同参画としては、まず災害対策本部の構成員に女性の職員を配置することで、応急対策における政策・方針に女性の意見を反映される必要があります。
また、帰宅困難者が大量に発生することが予測される地域においては、男女共有スペースだけではなくて、男女別のスペースも確保するように要請することや、避難所において開設した段階で、授乳室、男女別トイレ、物干し場、更衣室、休養スペースを男女別にすることがあげられます。
避難所では女性へのトラブルが発生する可能性が高いことからも、避難所の管理責任者には男女両方を配置するなどの配慮が重要になります。避難所で生活必需品を供給する際にも、生理用品や下着などの女性用品については女性の担当者から配布したり、女性専用スペースや女性トイレに常備したり、配布方法にも工夫が必要です。
実際に東日本大震災の際には「女性用の下着が不足した」「授乳や着替えをするための場所がなかった」など、物資の提供や避難所の運営において女性に対する十分な配慮がなされず、被災地ではさまざまな問題が発生しました。
その反省を踏まえて2016年に熊本地震が発生した際には、下記のような女性視点の被災者支援が一部の避難所などで行われました。

熊本地震の際の女性視点の被災者支援

・間仕切りによるプライバシーの確保
・女性用更衣室の設置や授乳室の設置
・女性専用の物干し場の設置
・男女別トイレの設置
・避難所の運営体制に対する女性の参加
・生理用品や女性下着などの女性用物資の女性からの配布
・女性に対する相談窓口の設置
・乳幼児のいる家庭エリアの設置
・女性や母子専用エリアの設置

全ての避難所でこのような対応がなされた訳ではありませんが、東日本大震災や過去の災害からの教訓を活かして、被災地において女性が少しでも生活しやすい環境作りが進められています。

復旧・復興の段階の男女共同参画

復旧・復興の段階における男女共同参画としては、復興対策本部の構成員に女性の職員を配置することで、復旧・復興に係る政策・方針の決定に女性の意見を反映されることが重要です。
復旧・復興の基本方向を定める復興計画の作成に際しても、政策・方針決定過程への女性の参画を拡大して女性の意見を反映させることや、集団移転・区画整理などを検討するまちづくり協議会でも、女性の意見を反映させることが必要になります。

防災における男女共同参画

防災体制を考える上で日本ではその基盤となるものとして防災基本計画が利用されています。その防災基本計画や男女共同参画基本計画の中では、災害の予防、応急、復旧・復興などのあらゆる局面において、男女のニーズの違いについて配慮するとともに、防災・復興に係る意思決定の場への女性の参加を推進するようにと書かれています。
災害時には女性だからこそ必要になることがあり、男性のみが主導となって防災体制を整備するとどうしてもその女性特有の問題が被災地には残ることになり、被災者を十分に支援することができます。
そのために、防災の現場においても男女共同参画の観点から、女性にとっても男性にとっても必要な対応や対策を行うために日本全体が動いています。
実際に地方防災会議に占める女性の割合も増加傾向にあり、今後も防災体制を決定する場に女性の参画がさらに進んでいくと期待されています。

(都道府県防災会議の委員に占める女性の割合:内閣府HPより引用)
以上、災害対応における男女共同参画について、災害時の男女共同参画の考え方、災害対応で男女共同参画の点から必要とされる具体的行動、などについて見てきました。
過去の災害では基本的な方針を決定する際には男性が中心になって意思決定が下されることが多くありましたが、今後は男女共同参画の観点から災害対応を行うことが必要不可欠です。

参照記事
災害救助法とは?適用基準と費用負担の割合について

参考サイト▪︎内閣府男女共同参画局「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」