南海トラフ地震の対策として政府が計画をしていること

台風等と違って、地震はいつどれくらいの大きさのものが発生するかについては予測することができません。しかし、おそらく数十年以内にこのエリアでこれくらいの大きさの地震が発生するのではないかと大雑把にならば予測することができます。
東日本大震災についても90%以上の確率で近々東北エリアにて地震が発生すると言われていました。しかし、まさかここまで大きい地震が来るとは想定していなかったために多くの犠牲者を出してしまいました。
現在日本で近々発生する可能性があると言われている地震で大きな被害をもたらすのではないかと言われているのが「南海トラフ地震」と「首都直下地震」です。今回はその中でも南海トラフ地震について、政府はどのような対策をしているのか、その災害計画について書いていこうと思います。

南海トラフ地震とは何か

南海トラフ地震とは日本の東海地方・東南海地方・南海地方あたりで発生が予測されている巨大地震のことです。この地震はプレートの沈み込みが原因と考えられており、100年〜200年くらいの間隔で定期的に発生しています。
気象庁の公表しているデータによると、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると想定されているそうです。

(想定震度分布 複数の想定されるケースの最大値の分布:気象庁HPより引用)
このエリアは過去にも定期的に大きな地震が発生しており、周期から考えてそろそろ地震が発生してもおかしくないと考えられています。

(南海トラフ地震とは:気象庁HPより引用)
南海トラフ地震が発生した場合には、太平洋側を中心に広範囲のエリアで大きな被害が発生されると想定されており、日本ではこの南海トラフ地震への防災対策として様々な対応がなされてきました。
このレベルの大地震が発生するとかなりの人的被害をもたらすことが想定され、経済的に大きな混乱をもたらすために、政府は事前にできる限りの対策と防災計画を立てています。

参照記事
国土交通省の南海トラフ巨大地震対策計画について

南海トラフ地震の地震対策

災害拠点になる公共施設やインフラ施設の耐震化

災害時に避難所としての活用が予定されている小中学校や公共施設では、地震が発生した際にも地震に耐えられるようにするために耐震化が進んでいます。
また、災害時に少しでも早くインフラ施設を復旧させるために、発電・送電システムの耐震強化や供給裕度の確保がされています。発電施設以外にも、水道の基幹管路である導水管、送水管、排水本管の耐震化も進んでいます。

地震による出火・延焼の防止

阪神淡路大震災では地震で家が揺れることに伴って火事が発生し、被害が拡大しました。地震に伴う出火を防止するために、感震ブレーカーの普及を加速させて電気・ガスの自動遮断を進めています。
また、都市部における火事の延焼を防ぐために、地震などに著しく危険な密集市街地の解消にも取り組んでいます。

南海トラフ地震の津波対策

津波ハザードマップの作成と津波避難計画の策定

津波が発生した際の危険エリアを公表するために津波ハザードマップの作成を行い、避難路や海岸堤防スロープ等の避難用通路の整備を促進しています。

海岸保全施設の整備

津波による被害を防ぐために、海岸保全施設の整備、開口部の水門自動化・遠隔操作化、海岸堤防の耐震化などが推進されています。

情報伝達手段の多様化

防災行政無線の整備、緊急速報メールの整備、J-ALERTの整備、SNSを活用した災害情報の伝達、ラジオを活用した災害情報の伝達など、災害情報をいち早く住民に届けるための施策も進んでいます。

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南海トラフ地震の対策として政府が計画をしていること

南海トラフ地震の防災教育・防災訓練

防災研修を推進することにより、地方公共団体の首長および職員の防災対応能力の向上が掲げられています。また、地域住民および児童生徒に防災知識を教育するための普及活動も行われています。
自主防災組織率の活動カバー率も高め、地震や津波に対する避難訓練の実施促進などが行われています。

南海トラフ地震の災害対応体制

南海トラフ地震に対する災害対応体制を整えるために、まず救助・救急体制、医療体制の充実・対処能力の向上が行われています。道路啓開・航路啓開を円滑にするための仕組み構築についても進められており、民間物流事業者との協力による物資の調達・供給体制の構築も進められています。
また、緊急消防援助隊、警察災害派遣隊、自衛隊の災害派遣など災害対応の専門家の強化についても目標として掲げられています。

南海トラフ地震の避難者への対応

南海トラフ地震では大量の住民が避難所へと避難することになると想定されており、その対応を事前にしておくことが重要であると考えられています。そのために避難所への避難者の低減、広域避難計画の策定、在宅避難者への支援などの対応が考えられています。
また、福祉避難所の指定と要配慮者への支援体制の構築、避難行動用支援者の名簿作成と避難支援の適切な実施も目標として掲げられています。
帰宅困難者への対策も重要であり、帰宅困難者の一斉徒歩帰宅の抑制、民間施設を主体とした一時滞在施設の確保などの対応が進められています。

参照記事
中部圏・近畿圏の内陸地震における課題とその対応策

南海トラフ地震における広域連携・支援体制の確立

南海トラフ地震が発生した際には、被災した自治体だけで災害対応や復旧・復興に当たるのではなく、近隣の他の自治体からの受援をもらいながら再建していく必要があります。
そのために、防災関係機関による相互応援協定、民間企業との応援協定の締結が進んでいます。また、効果的な広域オペレーションを行うために必要な大規模な広域防災拠点をあらかじめ明確化、全国的な応急活動体制の構築が行われています。

南海トラフ地震における災害情報の収集・発信

災害情報を効率的に収集するために、ヘリコプターからの画像やマスコミからの情報の組み合わせによる災害直後の情報収集体制の充実や、報道機関やポータルサイト運営事業者との協力体制構築、発災時を想定した情報提供手段の機能検証などが行われています。

南海トラフ地震のその他防災対策

南海トラフ地震に備えて民間企業と行政の両方におけるBCPの策定も進められています。行政の業務継続計画の策定率向上と、民間企業では大企業を中心に事業継続計画の策定率向上が進められています。
この他にも、原子力発電所や石油コンビナートなど災害時に大惨事が発生する可能性のある地帯については法令に基づく安全確保が行われており、孤立集落となる可能性の高いエリアでは通信手段の多様化や備蓄の促進が行われています。

南海トラフ地震に備えた法律と計画

南海トラフ地震はそれに備えるために「南海トラフ地震に係わる地震防災対策の推進に関する特別措置法」というとても名前の長い法律が存在します。この法律では具体的な計画として「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」の策定を義務付けており、実際この計画に基づいて南海トラフ地震への対策が行われています。
また、実際に南海トラフ地震ではどれくらいの被害が発生するのかを想定するために内閣府の中央防災会議や南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループにて議論がなされています。詳細については内閣府のHPにて公開されています。
この計画は、南海トラフ地震が発生した直後に国や地方公共団体等が被害の全容の把握を待つことなく具体計画に基づく被害応急対策活動を円滑迅速に実施することと、大きな被害が見込まれるエリアに対して人的・物的資源を重点的かつ迅速に投入することを目的にしています。

南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画の概要

政府では南海トラフ地震が発生した直後の応急対策として具体的に下記の図のような体制を計画しています。

(南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画の概要:内閣府HPより引用)

南海トラフ地震における緊急輸送ルート計画

災害が発生して応急対応をする際に道路等の輸送手段を確保することは極めて大切です。全国各地から支援物資や支援人員を受け入れるにも、道路がなければ被災地まで届けることができないからです。
そのために事前に必ず輸送手段として確保しなければならない道路を指定しておき、災害時には通行可否の共有、道路の復旧、警察による道路規制等を行うことになってます。

南海トラフ地震における救助・救急、消火活動等に係る計画

災害発生直後の初動対応では人命救助が何よりも大切ですが、被災地圏内の消防・警察を最大限動員するとともに、TEC-FORCEと呼ばれる緊急災害対策派遣隊を派遣するなどの 計画を立てています。

南海トラフ地震における医療活動に係る計画

南海トラフ地震では多数の負傷者が予測されますが、被災地では病院そのものも被災することが予測され、とても被災地の病院だけではカバー仕切れなくなると想定されています。
そのためにDMATと呼ばれる災害時派遣医療チームを派遣して最低限であっても医療体制を整えると同時に被災地外へ重体の患者を輸送する体制を早期に構築することを計画しています。

参照記事
南海トラフ地震に備えて行われている主な防災対策について

南海トラフ地震における物資調達に係る計画

被災地では備蓄されている物資がありますが、備蓄されている物資だけで長期間は持たせることができないので支援物資を近隣の都道府県から要請します。支援物資についてはプッシュ型で必要と想定される支援物資について要請を待たずに輸送することが必要不可欠であると計画されています。

南海トラフ地震における燃料供給及び電力・ガスの臨時供給に係る計画

南海トラフ地震では太平洋沿岸の多くの製油所が被災する可能性があり、燃料の確保が問題になります。そのために石油業界の系列供給網毎の系列BCPを基本として「災害石油供給連携計画」に基づいて系列を超えた相互協力の体制構築を計画しています。
以上、南海トラフ地震が発生した際の対策として政府が初動段階や応急段階で計画していることについて見てきました。南海トラフ地震はいつ起きるかはわかりませんが、いつかは必ず起きます。事前にどれだけ防災計画を準備することができるかが、被害の大きさを左右するのかもしれません。

国土交通省の南海トラフ巨大地震対策計画について

南海トラフ地震に関しては、国土交通省では「国土交通省南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策本部」および「対策計画策定ワーキンググループ」を設置して、「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」を策定しました。国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画について、そもそも国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画とは何か、国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画の内容、などについても触れていこうと思います。

国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画とは何か

そもそも国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画とは何かをひとことで言うと、南海トラフ地震の発生に備えて、その防災対策として何を取り組むべきなのかなどが書かれた計画になります。
南海トラフ地震は仮に発生すると広域に渡って大きな被害をもたらすことが予測されており、国土交通省として、広域的見地や現地の現実感を重視しながら、省の総力を挙げて取り組むための対策がまとめられています。
国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画では大きく7つの重要テーマについて書かれているので、それぞれについて詳しく見て行こうと思います。

参照記事
防災の主流化とは?その定義と取り組み内容について

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ①:短時間で押し寄せる巨大な津波からの避難を全力で支える。

南海トラフ巨大地震では津波による死者は最大で23万人、救助を必要とする人は最大で4万人になると想定されています。この被害を少しでも減らすために、緊急地震速報、津波警報、津波観測情報の迅速化と高度化が進められています。
避難路、避難場所の整備も進められており、被害の最小化を行うための対策が行われています。

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ②:数十万人の利用者を乗せる鉄道や航空機等の利用者について、何としてでも安全を確保する。

南海トラフ巨大地震が発生するエリアは日本の鉄道の大動脈である東海道・山陽新幹線が走る場所であり、地震発生時、東海道・山陽新幹線には約8万人、中京圏・近畿圏の在来線には約64万人が乗車している可能性があると言われています。
地震によって鉄道が脱線すると被害が拡大してしまうので、脱線時の被害が大きいと想定される区間を優先的に脱線・逸脱対策が実施されています。

(南海トラフ巨大地震対策計画:国土交通省HPより引用)

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ③:甚大かつ広範囲の被害に対しても、被災地の情報を迅速・性格に収集・共有し、 応急活動や避難につなげる。

南海トラフ巨大地震によって震度6弱以上を観測するエリアは約7.1万㎢、津波による浸水面積は約1000㎢、約450市区町村と広範囲になることが予測されています。
被災エリアが大きくなると、被災地の情報を迅速・性格に収集・共有することが難しくなるので、電子防災情報システムの本格運用を開始し、被災情報の収集・共有を迅速化し、精度を向上させています。

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ④:無数に発生する被災地に対して、総合啓開により全力を挙げて進出ルートを確保し、救助活動を始める。

南海トラフ巨大地震では、最大で道路約41000箇所、鉄道約19000箇所、港湾約5000箇所、 5つの空港で津波による浸水が発生することが予測されています。
そのために、紀伊半島、四国、九州等の津波による浸水が想定される地域の主要な道路を対象に、広域道路啓開計画の策定を推進するとともに、当該路線の耐震補強や代替路線の整備等の対策が進められています。

参照記事
南海トラフ地震の対策として政府が計画をしていること

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ⑤:被害のさらなる拡大を全力でくい止める。

南海トラフ巨大地震では山間部で広域かつ多数の大規模土砂崩壊が発生、河道閉塞が形成され、甚大な二次災害のおそれがあります。
そのために、大規模な二次被害を、事前の戦略的な備えと発災後の迅速かつ的確な行動で最小限にくい止めるべく、強い揺れが想定される紀伊半島や四国等の内陸部の山間地においては、緊急対応に不可欠な交通網の寸断や二次被害のおそれのある箇所等において、砂防堰堤等の土砂災害対策が進められています。

(南海トラフ巨大地震対策計画:国土交通省HPより引用)

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ⑥:民間事業者等も総動員し、数千万人の被災者・避難者や被災した自治体を全力で支援する。

南海トラフ巨大地震の発災翌日には、最大で約430万人が避難所に避難するため、 救援物資の不足等が懸念されています。そのために自治体及び物流事業者等と連携した訓練等を実施しており、官民一体となった支援体制の整備を進めています。

南海トラフ巨大地震対策計画テーマ⑦:事前の備えも含めて被害の長期化を防ぎ、1日も早い生活・経済の復興につなげる。

静岡市由比地区の土砂災害対策、濃尾平野の水害対策、JR東海道本線の貨物列車代替ルート対策、三大湾の耐震・耐津波性能の強化など、地震による被害が大きくなると想定される重要な拠点の防災体制の強化が進められています。
以上、国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画について、そもそも国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画とは何か、国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画の内容、などについて見てきました。
南海トラフ巨大地震は仮に発生すると大きな被害を日本全体にもたらすことが想定されているので、国土交通省では多様な角度からの防災対策が進められています。

参考サイト▪︎内閣府「南海トラフ地震対策」▪︎「国土交通省」国土交通省における南海トラフ巨大地震・首都直下地震対策