災害多目的船(病院船)とは?災害対応を海から行うために


災害が発生して被災地で大きな被害が出ると、被災地の自治体や国は少しでも多くの被災者を救い、復旧・復興を果たすために災害対応を行います。この災害対応は今までは基本的に陸上からのアプローチが主体でしたが、島国である日本は海上からの災害対応アプローチも行うことで、より効果的な防災施策を行うことができるのではないかという意見もあります。
この海上からの災害対応のアプローチを行う際には、船からの災害対応を行うのですが、災害対応を行うその船のことを災害多目的船(病院船)と呼びます。
今回はそんな災害多目的船について、そもそも災害多目的船(病院船)とは何か、災害多目的船の課題、海外の災害多目的船との事例、などについて書いていこうと思います。

災害多目的船(病院船)とは何か

そもそも災害多目的船(病院船)とは何かをひとことで言うと、災害対応を海上から実施するために災害対応を行う際に必要になる医療などの機能を持った船舶のことです。
災害多目的船の必要性が注目されるきっかけとして、東日本大震災の際に被災地の医療体制が動かなくなってしまい、被災地に医療機能を提供するための方法を多様化させる必要が出てきました。
その中で、海からの救助・救援は移動範囲や輸送能力などで災害対応に使えるのではないかとされ、「災害時多目的船に関する検討会」の中で、災害多目的船の災害時の利用が検討されました。

災害多目的船は現状として活用されているケースは少なく、防災基本計画や地域防災計画の中でも、災害対応において船舶を活用することや海からアプローチすることについては限定的な場合が多いです。
過去に実際に行われた災害対応においても船舶が活用されるケースはあるものの、輸送、捜索救助、飲食物支援、入浴支援への活用がほとんどであり、医療を行うために船舶が活用された実績はほぼありません。
災害多目的船に期待される機能としては、輸送機能、捜索・救助機能、医療機能、消火機能、被災者等支援機能、航路・港湾障害排除機能、指揮機能の7つに整理されていますが、その中でも医療機能については大きな期待が寄せられています。

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災害多目的船の課題

災害多目的船の課題として現在考えられているものとして、陸上や空からの災害対応との連携を強化する必要がある点です。
災害対応の基本はあくまで陸からの対応であり、災害多目的船はそれを補完する意味合いが強いと考えられています。
そのために陸上や空からの災害対応との連携を強化する必要があるのですが、連携強化のためには、情報の共有も含めた運営の制度検討と共に事前準備・計画策定、教育・訓練、母港選定が必要になります。

また、災害多目的船が医療機能を発揮するためには、医療スタッフ確保、対象医療フェーズの検討、陸上医療との連携、制度上の課題の克服、医療資機材・医薬品の整備が必要になります。
これらの課題を解決するには、普段からの関係機関相互の連携、対象フェーズの明確化、医療活動体制の整備、障害となっている制度の見直し、事前の準備が重要です。
この他にも平常時に災害多目的船をどう活用すれば良いのかという課題もあり、離島・遠隔地等への巡回支援、国内外での防災意識の啓発教育、海外における災害対応や国際貢献、実験・研究等が想定されています。

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津波救命艇とは?津波から身を守るための手段とガイドライン

海外の災害多目的船(病院船)との事例

このように現在日本では災害多目的船の活用が検討されていますが、海外では病院船という形ですでに災害でも海上からのアプローチが行われているケースもあります。
海外の病院船では、手術室や病室、ヘリポートなどが備えられ、船上で治療や手術などを行うことができます。海外の病院船の災害時の活躍では、アメリカ海軍の保有する「マーシー」が2004年にインド洋大津波で行なった活動が知られており、この病院船では、5カ月間の活動で10万以上の災害治療を行ったと言われています。

以上、災害多目的船について、そもそも災害多目的船(病院船)とは何か、災害多目的船の課題、海外の災害多目的船との事例、などについて見てきました。
日本ではまだ海上からの災害対応という方法は定着していませんが、島国でありかつ災害大国である日本では災害多目的船などを活用したアプローチが有効である可能性があります。

参照記事
船舶が津波から避難する際のマニュアル作成について

参考サイト▪︎内閣府「災害時多目的船に関する検討会」